電動アシスト自転車の走行距離の測定方法と実際に走れる距離についての考察

電動アシスト自転車の走行距離(満充電後バッテリー残量がなくなるまでに走行できる距離の目安)の測定は業界団体で定められた基準に則って計測されます。
2010年に社団法人自転車協会で『電動アシスト自転車の測定方法に関する基準』(新基準)が制定され、各メーカーはこの基準に沿って計測を行います。

新基準とそれまでの測定基準

この新基準が決められる以前は、別の基準で測定を行っていました。しかし 実際の使用での走行可能距離とメーカーカタログ値の走行距離が大きく異なる 場合を考慮し、より 厳しい測定条件(新基準)が定められました。新旧の大きな違いは坂の勾配です。以前は傾斜が2度なのに対し新基準では4度と坂がきつくなりました。条件が厳しくなることによって、走行距離が約40%ほど減少しました。
(準備中です:新基準と旧基準の画像と表)

新基準の詳細について

新基準の条件は下記の通りとなります。

【A】平坦路1km・変速3・速度15km

10秒停止

【B】4度の上り坂1km・変速2・速度10km

10秒停止

【C】平坦路1km・変速3・速度15km

10秒停止

【D】4度の下り坂1km・変速3・速度20km

10秒停止

このA~Dのサイクルを止まるまで繰り返します。
その他の条件は下記の通りです。
(1)測定温度は常温(15~25℃)、無風の状態
(2)バッテリーは新品を用い、バッテリーライトは消灯状態
(3)車載重量(乗員と荷物の合計)は65kg
(4)路面は乾燥した平滑な路面
(5)タイヤ空気圧は標準空気圧
(6)シャーシダイナモ(室内計器)による計測

カタログ値と実際の走行条件を考えてみる

カタログの走行距離はあくまで目安として考える必要があります。電動アシスト自転車のメーカーも、「条件によって異なり、保証するものではありません」と目立つように表示しています。自動車の燃費も実際はカタログ値よりもかなり低いですよね。ですのでこのあたりは暗黙の了解みたいなものがあると思います。

電動アシスト自転車の走行距離について、測定値と実際の距離に違いが出る理由をそれぞれ考えてみたいと思います。

坂の勾配

測定基準では坂の傾斜が4度で1km走ることになっています。4度の傾斜とは勾配でいうと7%となります。これは100mで7m登る坂となります。10mなら70cmです。どれくらいの坂なのか少し調べてみたところ、参考になりそうな場所がありました。
ダイハツのTANTOという軽自動車のテレビCMで一躍有名になった「べた踏み坂」と言われる場所です。ここは、鳥取県境港市と島根県松江市にある「江島大橋」という橋です。wikipediaによると勾配 :は島根側6.1 %、鳥取側5.1 %だそうです。おそらく「べた踏み坂」と言っているのは勾配がきつい島根側だと思います。こちらのページにいくつかの坂の写真があるので参考になります。
踏みベタ坂と、日本一急勾配の国道 – horibonpapaのブログ | GAZOO.com
構図によってかなり違って見えますが、これで6.1%なので、7%は結構な坂になると思われます。坂については実際の使用に比べてもかなり強めの設定をしているように思われます。ちなみにヤマハでは、この勾配7%の坂を登り続けた場合のデータも一部公表していて、だいたい10km程度となっています(PAS ナチュラXLというバッテリー容量が8.7Ahという平均的な車種を使用)。坂道が連続する場合は、走行距離がかなり減るので、坂の多い地域の場合は、バッテリーが大きなタイプを購入したほうがいいかもしれません。蛇足ですが紅葉で有名な日光のいろは坂は平均勾配が5.7%、距離が約15kmだそうです。距離が長いですが、勾配が緩いため満充電で登りきれるかもしれません。

気象条件(気温・風)について

新基準では、測定の条件は常温(15~25℃)で無風の状態となっています。
まず気温から考えてみたいと思います。バッテリーは温度が下がると性能が低下します。現在主流となっているリチウムイオン電池は気温が低下すると性能も低下します。具体的なデータはありませんが、ヤマハのカタログには「冬季は気温や風の影響で1充電あたりの走行距離が2~4割引くなります」という記載があります。ここでの風と気温の関係がわかりませんが、気温が低い場合は確実に影響が出ます。またパナソニックは「寒い環境(約5℃以下)ではバッテリーの性能が低下します」とカタログに記載しています。冬の場合は、いつもよりバッテリー残量に注意し、早めに充電するなどした方がいいでしょう。また、寒冷地で利用する場合は、この性能低下を見込んで、あらかじめ容量の大きいバッテリーを搭載した機種を選ぶといいでしょう。
風についても具体的なデータはありませんが、向かい風の時は体感的にペダルが重くなるので、電池の消耗も早いと考えられます。気温が低いと空気の密度があがり、空気抵抗がが強くなります。特に冬は気温が低くて季節風も強く吹くので、夏よりも影響が大きいと思われます。基準では無風の条件ですので、風が強い地域ではバッテリーの減りが早くなるかもしれません。
また、もう一つ気になるのが、測定条件はシャシーダイナモ(室内条件)による測定となっています。これは、フィットネスクラブのルームランナーのようなもので測定するのではないかと思いますが、この場合、実際には進まないので風の抵抗をまったく受けません。実際に走行すると、多少なりとも風圧を受けるので走行距離は短くなると推測できます。

バッテリーについて

走行距離はの測定では、新品のバッテリーを使用することになっています。しかしバッテリーは使用するに従って性能が低下していきます。主流のリチウムイオン電池は性能が向上していますが、パナソニックの場合で700~900回の充電で性能が半分になってしまいます。(2014年2月のカタログにて。使いきってから満充電を1カウント。)したがって使用するにしたがって徐々に走行距離も減少していきます。
また、基準ではライトを消した状態となっています。新しい機種はほとんどがLEDを採用し、消費電力は少ないですが、ライトを点灯する時間が長いと、その分バッテリーを消費し、走行距離も短くなります。

車載重量(乗員と荷物の合計)について

基準では車載重量が乗員と荷物を合わせて65kgとなっています。電動アシスト自転車では重量が10kg増すと走行距離が10%減少すると言われています。私の体重は約80kg(最近太りました)あるのですが、この場合、荷物を乗せていなくてもすでに基準より15kgもオーバーしています。よって走行距離は15%減少してしまいます。
パナソニックには「ビビ・ストロング」というビッグサイズ向けの機種(車載重量を120kgまで想定して設計)があるのですが、バッテリーは12Ahの大容量タイプを搭載しています。
体格の良い方や、荷物をたくさん載せる場合は機種を選ぶ際に考慮しておく必要があります。

路面について

基準では「路面は乾燥した平滑な路面」となっています。しかしながら実際の道では凸凹があったりします。平らな道でも、車道から歩道に乗る時は上りになっていますし、ちょっとした坂は無数にあります。自転車に乗っていてペダルを通常より踏み込む機会が多いほど、実際の走行距離は減少していきます。

発進・停止について

基準では1サイクル4kmのうち、停止は4回しかありません。しかし、実際の道路では信号や一旦停止、車の通過を待ったりなど停止する場面は無数にあります。停止から発進する時はペダルを踏み込むため、バッテリーが消費します。特に街中を走行する場合は発進・停止が増えるため実際の走行距離は減少します。

タイヤの空気圧について

条件ではタイヤの空気圧は標準空気圧となっています。標準空気圧とは車種ごとに決められた最適な空気圧です。
タイヤの空気が減ると、ペダルがかなり重くなります。タイヤの空気は時間が経つと必ず減ってきます。このため定期的に空気を入れてあげる必要があります。空気の少ない状態で走ると抵抗が増すため、その分走行距離も短くなります。

走り方について

ペダルが重くなるような走り方をすると、走行距離が短くなります。例えば、上り坂を高いギアで登った時などです。ペダルが軽く快適に進めるよう調整すると、その分走行距離も長くなります。